妊娠高血圧症候群と薬

妊娠高血圧症候群、その内容や原因、症状についてお伝えさせていただきました。
今回は、妊娠高血圧症候群に用いられる薬についてみていきたいと思います。
今回はこんな内容です!
1.妊娠高血圧症候群の治療
妊娠高血圧症候群は、降圧薬を用いるかどうかという基準で軽症と重症に分類されます。
それぞれについて、もう少し詳しくみていきましょう。
①軽症
高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)によると、軽症の妊娠高血圧症候群の基準は次のようになっています。
○血圧:次のいずれかに該当する場合
・収縮期血圧 140~160mmHgの場合
・拡張期血圧 90~110mmHgの場合
○蛋白尿: 300mg~2000mg/日
妊娠高血圧症候群は、赤ちゃんへ、より血液を送ろうとして血圧が上がると考えられています。そのため、血圧を下げることが一概に良いということはできません。
逆に不適切な血圧降下は、赤ちゃんの発育不全につながる可能性もあります。
ですが、重症化への移行を予防したり、赤ちゃんの機能不全の可能性を回避したりするためにも降圧治療が必要であるという報告もされています。
降圧薬は、基本的には必要というわけではないですが、状況に応じて使用されることがあります。
担当の医師とよく相談しながら、血圧の管理方針を検討してください。
②重症
JSH2014では、重症の判断基準は次のようになっています。
○血圧:次のいずれかに該当する場合
・収縮期血圧 160mmHg以上の場合
・拡張期血圧 110mmHg以上の場合
○蛋白尿:
蛋白尿が2g/日以上のときは蛋白尿重症とする(その都度検査する随時尿を用いたときは、複数回の測定で連続して3+以上(300mg/dL以上)の陽性と判定されるとき、蛋白尿重症とみなす)。
重症の妊娠高血圧症候群では、脳や心臓、腎臓などお母さんの臓器障害を防ぐために速やかな降圧治療が必要となります。
JSH2014では、
「160/110mmHg以上」
を薬による治療開始基準としています。
ただし、子癇(痙攣発作)発症の前駆症状がある場合は、早急に薬物療法が導入されます。
③緊急症
妊婦さんや産褥期の女性に、
収縮期血圧が180mmHg以上、あるいは、拡張期血圧が120mmHg以上
の高血圧が認められることがあります。
この場合、高血圧緊急症と診断されます。
2.妊娠高血圧症候群の降圧目標
妊娠高血圧症候群では、確立したエビデンスはありませんが、
「160/110mmHg未満」
を降圧目標としています。
3.使用される降圧薬
薬の使用は、産婦人科医や高血圧専門医とよく相談してください。
ここでは、JSH2014をもとに使用可能な薬についてお伝えします。
第一選択薬として、メチルドパ(中枢性交感神経抑制薬)、ヒドララジン(血管拡張薬)、ラベタロール(α1β遮断薬(交感神経抑制薬))が用いられます。
①妊娠20週以内の場合
メチルドパとヒドララジン、あるいは、ラベタロールとヒドララジンの組み合わせが推奨されています。
②妊娠20週以降の場合
交感神経抑制薬(メチルドパ、ラベタロール)のいずれかと血管拡張薬(ヒドララジン、徐放性ニフェジピン)のいずれかの併用が推奨されています。
長時間作用型(徐放性)ニフェジピンは、Ca(カルシウム)拮抗薬に分類されますが、平成23年の添付文書(薬の説明書き)の改訂で、有益性が認められる場合の投与が認められるようになりました。
ニフェジピンには、徐放性とそうでないのがありますが、徐放性が原則的に用いられます。
4.使用してはいけない降圧薬
妊娠または妊娠している可能性のある女性に使用してはいけない(禁忌)降圧薬もあるので、注意が必要です。
僕がいつもお世話になっている子宝先生に言わせれば、
「全部ダメ」
って言われるでしょうね、きっと(汗)
なぜ、使用してはいけないのかというと、
催奇形性といって、薬を飲むことで赤ちゃんに影響が出てしまう可能性があることが報告されているからです。
これは、たとえ今までなかったからといって、安心できるわけではないです。
薬を服用して、100%副作用が発生しないということはありません。
逆に絶対に言えることは、薬を飲まなければ100%副作用は発生しないということです。
薬を服用するということは、それ相応の覚悟が必要です!!
・Ca拮抗薬
先程紹介したニフェジピンは、使用可能となっています。
・βブロッカー
ラベタロール(α1β遮断薬)は、使用可能となっています。
・RA系阻害薬
最近では、催奇性とは必ずしも関係ないという報告もありますが、原則的というか絶対に禁忌です!!
5.出産後に、高血圧はどうなるのか?
妊娠高血圧症候群は、赤ちゃんを産んだ後はよくなることが多いと言われています。
ですが、高血圧が重症だった場合など、出産後も血圧が高い状態が続いたり、尿蛋白がみられたりすることがあります。その場合、薬が継続して用いられることもあります。
出産後、12週間以上症状が続くときは、別の病気の可能性もあるため、詳しい検査を受けることが勧められています。
6.授乳と降圧薬
JSH2014に授乳中でも使用可能な降圧薬が記載されているので、次の表を参考にしてみてください。
まとめ
妊娠高血圧症候群は、症状の度合いによって降圧治療を行う必要があります。
妊娠高血圧症候群では、使用可能な薬が決まっています。
薬の中には、妊娠または妊娠の可能性のある女性に使用してはいけないものもあります。
以上、今回は妊娠高血圧症候群と降圧薬についてでした。
薬には必ず副作用があります。
薬についての最低限の知識をつけることは、お母さん自身だけでなく生まれてくる赤ちゃんも守ることにつながります。
薬に頼らないためにも、普段から生活習慣の見直しは行うようにしましょうね!