妊娠と高血圧

妊娠によって、体調が変わったという話をよく聞きます。
僕の祖母も、妊娠・出産で視力が低下しました。そして、生まれてきた子(おばさんに当たる)は姉妹の中で一人だけ、視力が悪くなってしまいました。
妊娠中に、何かあったのかな?
中には、妊娠によって血圧が高くなる方がみえます。
それを妊娠高血圧症候群といいます。
以前は、妊娠中に現れる様々な症状を含めて妊娠中毒症と読んでいたのですが、その中でもお母さんや赤ちゃんへの影響を考えたときに重要となってくるのが高血圧だということが分かってきて、高血圧に対する意識を高めてもらうためにも妊娠高血圧症候群と改名される事になりました。
この妊娠高血圧症候群、時によってお母さんや赤ちゃんの命にかかわることもあります!!
妊娠高血圧症候群は、妊娠中に気をつけてほしい症状の一つです。
今回は、この妊娠高血圧症候群について、どのような疾患なのか、原因や症状、なりやすい方の特徴についてみていきたいと思います。
今回はこんな内容です!
1.妊娠高血圧症候群とは
まずは、妊娠高血圧症候群について説明します。
以前、妊娠中毒症という言葉がありました。これは、妊娠する前は何もなかったのに、妊娠中期(20週目前後)以後になってからお母さんに高血圧、蛋白尿、浮腫(むくみ)のいずれか一つ、または二つ以上現れる状態のことをいいますが、お母さんや赤ちゃんに影響を与えるのは、この中で高血圧であることが医学的に分かってきました。
妊娠中毒症による体調不良の主たる原因が高血圧であることから、高血圧により重点的に意識を置くために「妊娠中毒症」という名前をやめ、「妊娠高血圧症候群」という新しい名前で呼ぶようになったという経緯です。
厳密にいえば、妊娠中毒症という大きな枠組みの中で、高血圧の症状を含んでいるものを妊娠高血圧症候群というのですが、体調不良を考慮に入れると、妊娠中毒症という大きな枠よりも、妊娠高血圧症候群という枠のほうが適切になったということです。
2.妊娠高血圧症候群の診断と分類
高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)に妊娠高血圧症候群の診断とその分類が記載されています。
①妊娠高血圧
妊娠20週以降に初めて高血圧(収縮期140mmHgもしくは拡張期90mmHg以上)が発症し、分娩後12週までに正常に復する場合
②妊娠高血圧腎症
妊娠20週以降に初めて高血圧(収縮期140mmHgもしくは拡張期90mmHg以上)が発症し、かつ蛋白尿(基本的には300mg/日以上)を伴うもので分娩後12週までに正常に復する場合
③子癇
妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次性痙攣が否定されるもの。痙攣発作の起こった時期により、妊娠子癇、分娩子癇、産褥子癇と称する
④加重型妊娠高血圧腎症
イ.高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までにすでに認められ、妊娠20週以降蛋白尿を伴う場合
ロ.高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降、いずれかまたは両症状が増悪する場合
ハ.蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に高血圧が発症する場合
蛋白尿については、1回の尿検査で1+(陽性)の結果が得られたとしても、精密検査によって蛋白尿ではないと分かることがある(偽陽性)ので、注意が必要です。
3.妊娠高血圧症候群の原因
詳しい原因は分かっていなませんが、現状では、胎盤が作られる際に血管が正常に作られなかったことが関係しているのではないかとされています。
ただ、妊娠によってお母さんに起こる変化はぜひ知ってもらいたいのでお伝えします。
妊娠すると胎盤と呼ばれるお母さんと赤ちゃんの連絡器官(栄養などを送るハシゴ)が作られます(完成は妊娠15週前後)。この胎盤を形成するときに、子宮の血管を一回壊して再度作り変えます!
コレ、なぜだと思います?
お母さんは、赤ちゃんに、より多くの血液を与えようとして(より多くのコミュニケーションをとろうとして)、血管を作り変えるんです!!
お母さんは、妊娠したときからすでに赤ちゃんを守ろうとしているということですね!
この血管を作り変えるという段階で、正常に血管が作られないと赤ちゃんとの連絡がうまく取れなくなってしまいます。お母さんは赤ちゃんと必死に連絡を取ろうとして多くの血液を流そうとします。それが妊娠高血圧症候群につながるのではないかと考えられています(僕なりの異訳も多くあります(汗))。
4.妊娠高血圧症候群になりやすい方の特徴
はっきりとは分かっていないようですが、いくつかの危険因子はあるので、該当する方・気になる方は注意が必要です。
・年齢
35歳以上で発症率が高まり、40歳を超えるとさらに高まることが知られています。また、15歳以下でも発症率が高まることが知られています。
・肥満
BMI25以上で発症率が高まります。妊娠前の体重が55kg以上で発症率が高まるとも言われています。ただ、これは身長とのバランスもあると思いますので、BMIをみたほうが良いのではないかと考えます。
・妊娠前から高血圧、腎疾患、糖尿病などがある方
元々、高血圧などがある方は、妊娠高血圧症候群になりやすいと言われています。
・初産婦
初めてお産の方に多くみられます。
他にも、前回の妊娠からの間隔が長い方や、二人目、三人目…の妊娠のとき、以前に妊娠高血圧症候群になったことがある方なども発症率が高くなると報告されています。
5.妊娠高血圧症候群は何が問題なのか
妊娠高血圧症候群は、お母さんにも赤ちゃんにも影響を与えます。
①お母さんへの影響
・子癇
診断と分類のところにも書きましたが、妊娠20週以降に起こる痙攣です。
子癇は、高血圧によって脳内の血流が急に増加することにより、脳内にむくみが起こることによって引き起こされると考えられています。
ひどいときには、脳ヘルニアや脳出血を引き起こすこともあり、赤ちゃんだけでなくお母さんの命にかかわることもあるので注意が必要です。
・HELLP(ヘルプ)症候群
溶血(Hemolysis)、肝酵素の上昇(Elevated Liver enzyme)、血小板減少(Low platelets)の症状が出現します。妊娠中のみならず妊娠後(産褥期)に発生することもあります。
「産婦人科の基礎知識」
補足:
溶血とは血液中の赤血球が壊されてしまうことです。
肝酵素の上昇とは、肝臓の機能が悪くなることです。
血小板は、怪我などで出血した時に、止血する役割があります。減少すると、止血に時間がかかるようになります。
HELLP症候群では、突然の上腹部痛、心窩部痛(みぞおちの痛み)が主な症状ですが、疲労感・倦怠感、悪心嘔吐もみられます。
適切な対応を行わないと命にかかわることもあるので注意が必要です。
・常位胎盤早期剥離
胎盤が、赤ちゃんが生まれる前に剥がれてしまうことです。
妊娠高血圧症候群の方、そうでない方、どちらにも起こる可能性があり、また、いつ起こるのか予測もできないので厄介です。原因も分かっていません。
ただ、妊娠高血圧症候群の方のほうが、剥離が生じる可能性が高いと言われています。
性器からの出血、腹痛などが主な症状ですが、剥離した部分が大きいと出血性ショックにつながることがあるため、注意が必要です。
常位胎盤早期剥離もお母さん、赤ちゃんともに命にかかわることがある症状です。
②赤ちゃんへの影響
妊娠高血圧症候群は、胎盤や子宮での血流がとどこおってしまいます。赤ちゃんは、お母さんの胎盤から血液を通して、酸素や栄養をもらいます。血流がとどこおっていると、赤ちゃんに充分な酸素や栄養が行き渡らないことになります。
酸素が行き渡らないと低酸素症になり、時に命にかかわることがあります。
栄養が行き渡らないと発育不全になり、時に命にかかわることがあります。
その他にも、お母さんへの影響によっても赤ちゃんに大きな影響がでます。
妊娠高血圧症候群自体に、ほとんど自覚症状がないので自分ではなかなか気づきにくいことも多いですし、普段、血圧測定をする習慣もなく、血圧を意識することも少ないと思います。
普段から定期的に血圧を測定する習慣を身につけることも大切です。
6.妊娠高血圧症候群は予防できるのか?
妊娠高血圧症候群の予防は、いくつか試みられていますが、未だ確立されていないのが現状です。
生活習慣の改善は、やはり大切です。減塩や肥満の改善、ストレスのない生活をおくれるようにご家族の力を借りながら取り組むことが大切です。
ただし、過度な減塩は、血流の低下を招く可能性もあるので、注意が必要です。
さいごに
妊娠高血圧症候群の根本的な治療は妊娠の中断になってしまいます。
さらに、妊娠高血圧症候群に限らず、妊娠中、命にかかわる事態が起きこった時、まず母体が優先されます。
お母さん自身、そして赤ちゃんを守るためにも、ご本人だけでなくご家族、周りの方を含めてみんなで協力することが大切です。
僕は今回、お母さんが赤ちゃんを守るという本能が、お腹の中に宿った瞬間から生まれるということなど、妊娠という神秘的なことについて改めて考えることができました。
妊婦さんや授乳婦さん、家族や身の周りの人など、いろいろな人との関わり合いで生活させていただいていること、改めて考えていきたいと思います。